「顕微鏡はもう習ったかい?」
「うん、葉っぱを見たよ」
「そうかい、そうかい、沢山粒々が見えたろう?」
「うん!たくさん見えた!箱の中に粒々があったよ!」
斜め向かいの家は子供がよく集まっていた。
庭には頑丈そうな木が何本も植わっていて、その横にプラスチックの壁に覆われた部屋があった。
これといって華やかな花があるわけでもないが、子供の目からは珍しいものも沢山あった。
いや、いつ見ても珍しく映る位にその家の家主の話はそこにある植物を語った。
「この葉っぱには箱があったかい。うんうん、その中の粒々はどんな形だったかい?」
説明できるほど言葉を知っていたわけでもない、身振り手振りでそれを伝えた。
「で、こういうのがミトコンドリアって言うんだ!」
覚えたての言葉を誇らしげに口にするものもいた。
こういうとき性格がよく表れるもので、大抵はその後口を噤む羽目となる。
「ミトコンドリアには目に見えない小さなモーターがあるんだよ」
「モーター?」
「中の粒々が動いていただろう?植物が生きている証拠なんだ」
「音聞こえる?」
「音かい、それはどうかな」
「木の音は聞こえるよ、耳をこうやってくっつけたら」
「うんうん、そうだね」
「たくさん集まってるから聞こえるんだ!」
んなわけねぇ
時折その家に出入りする人たちが「教授」と呼んでいた。
今思えば何かの教授だったのだろうが、ただの「おっちゃん」としか思っていなかった。
「この実変な実」
「どれかな?」
「これ、赤い実の先に青い実がついてる」
「それはまきの実、そこの木に沢山なってるだろう?」
「本当だ!なんかグミみたい」
「赤い方は食べられるんだよ」
「食べる!」
青い方は白っぽく粉を吹いたように生っていたせいで、緑が青く見えていた。
赤い方は柔らかくほんのりと甘い実だった。
グミよりも四角い感じで青い実を取るとくぼみが出来た。
ほこりを落として食べるように言われた。
そしてこう教えてくれた。
「昔は”猫のキンタマ”といったものだ」
赤い実を口に運ぶ子供らの手が止まったのは言うまでもない。
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