忍者ブログ
http://atirakotira.blog.shinobi.jp/
お話を書いています。 まだ整理整頓できてないですが、少しずつ更新していきますので宜しければお立ち寄りください。 日記や雑記も混じってます。
20  18  17  16  14  13  12  11  10  9  7 
2024-05-18 (Sat)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2008-07-04 (Fri)

御母屋の便所は今も外だった。

田舎に行くと今でもまだ山深い景色が残っていて、
そこに本家、分家と少し離れてあった。
本家の敷地には御母屋と別に大ばぁが住む家があった。
広い敷地は庭というより、ただ広い場所。
風呂も外にあって、別棟のそこに行くまで数メートルほどある。
壁沿いに細い竹が刺してあって、夜顔がつたっていた。


田舎の夜は空が高い。
冬場にはその空間がキンと耳の奥に痛く感じるほどに
静まり返って、冷たく硬い透明な空が怖くさえ感じた。

今は夏、昼間のセミにうんざりさせられ、
慣れない田舎の勝手に惑わされ、

「たまには田舎でゆっくりしておいで」

は、嘘だと思う瞬間だった。

とはいえ今ではクーラーも普通にある。
蚊取り線香がすさまじい勢いで煙を散らす。
体中燻されまくりだ。

数年前までは有線が一日中鳴っていた大ばぁの家。
今ではデジタル放送付き。

食事を終えビール片手にボンヤリと外を眺める。
大ばぁは、客が来ると御母屋に寝る。
客は大ばぁの家に泊まる。
理由は布団以外母屋においてあるから。
その辺が本家の不思議だった。

大ばぁはクーラーが嫌いらしく、
家の大部屋には蚊帳の吊り金具ががっちりと付いていた。
たぶん、別棟を立てるときに始めから「つける予定」で
付けられた物だろう。

田舎を味わうべく蚊帳を吊ってもらい、
その中で夜を過ごす。
ふと外に目をやると、縁側から白い夜顔が覗いていた。
やたらと重く濃い空気がゆるゆるとゆれる。
風の無い蒸し暑い夜だ。

 あ・・・便所・・・

これだけ汗をかいても、ビールの利尿効果は即効性付きで現れる。
外に出て数メートル先の別棟、風呂の隣の建物。

 こんなところにも夜顔。

白い朝顔に似た花が何輪も咲いている。
シンと静かな中で咲いている真っ白な夜顔を見ていると、
ほんの少しだけ、気持ちだけ涼しく感じる。

便所に入ってみると、少し高い位置に小さな窓がある。
星が見える。
枠にも夜顔がつたっていた。
電球が薄暗いせいだから見えたというわけじゃない。
真っ白な夜顔の咲く小さな額縁のついた濃い藍色の空の絵のように、
そこに星が光っている。

さわさわと小さく遠く葉が揺れる音がする。
静かだ。
用を足そうとした。

ガッ!
ジジジジジジ!!

「ひっ!」

蝉だ。
色んな意味で色んなものが、止まった。

ふと顔を上げると、
夜顔がからからと笑っているように見えた。
その下には壁にぶつかって裏返ってまま落ちている蝉がいた。

 

 

 

 


夜顔は朝顔と同じようにラッパ型の花で、
夕方から夜にかけて咲きます。
朝には萎んで、それと交代のように朝顔が咲きます。
夜顔のことを夕顔と呼ぶ人もいるようですが、
土地柄でしょうか?

PR
■ この記事にコメントする
NAME
TITLE
COLOR
MAIL ADDRESS
URL
COMMENT
PASSWORD
COMMENT
TITLE : 「夜顔」
「夜顔」という呼び名を始めて知りました!私のところでは、確かに「夕顔」と呼びます。

確かに朝顔と良く似た花なのですが、咲く時間に夜を選ぶ辺り、夜顔たちの方が、どこか艶めかしい大人に感じます☆
神楽坂 素子 URL 2008-07-21(Mon)11:29:09 編集する
■ この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
迷い道の向こう側へようこそ
迷い道の向こう側にあるお話は、
各カテゴリーがお話の題名
(若しくはジャンル)になっています。


「日記」はそのまま日常のことです。

「植物なお話」は植物が何らかの形で
 係わっているおはなしです。

「迷い道のその向こう」はチョット
 変わったファンタジー系(?)の
 お話です。

「Gear」はパラレル系です。このお話
 のみ、条件付きになっています。


 
聴くお話
別館『さわさわ森』聴くお話サイトで
配信中の「聴くお話」です。
「読むお話」は『迷い道の向こう側』でも
公開しています。


聴くお話では沢山の方に
お手伝いしていただいております。
自己紹介
  
 名前 佐伯 知花
 趣味 書くこと
     植物観賞
 嗜好 日本酒
     紅茶
     PCパーツ店巡り
        
 


STRing


 
SEARCH IN THIS BLOG
忍者ブログ × [PR]
PRODUCE BY SAMURAI FACTORY
"迷い道の向こう側"