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お話を書いています。 まだ整理整頓できてないですが、少しずつ更新していきますので宜しければお立ち寄りください。 日記や雑記も混じってます。
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2024-05-18 (Sat)
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2009-09-15 (Tue)
秋の長雨に降られながら、あぜ道を通り知人宅を尋ねる。
ズボンの裾を膝までたくし上げ、靴を犠牲に小走りで急ぐ。
傘を短く持つ手に絡めるようにビニール袋を下げ急ぐ。


「こんな日に本を返せとは・・・」

彼岸の休みの朝っぱら、数日前に借りた本が読みたくなったと電話が入る。
取りに行きたいが客が来るからと。

「客が来るなら尚更、今日でなくても良さそうなものを」

そう思いながら急ぐ。
昼からはこっちが都合悪い、今なら雨脚もそこまでは酷くなかろうと思い立ち家を出るなりこれだ。
斜めに打ち付ける雨をよけるように傘を短く持つ。
足元とすぐ先しか見えないから水溜まりには容赦なく踏み込む。

「酷い、酷すぎる」

知人宅に着き玄関先で傘をたたみながら腰から先に飛び散る土交じりの撥ね水に気づく。

「ああ、ありがとう、本は無事?」
「本だけは無事だよ」
「丁度雨が酷いときに中ったようだね」
「大当たり過ぎて涙が出そうだよ」

たくし上げたズボンも意味もなく、膝下は水につかったようになっている。

「さっき客が帰ったばかりだよ、本当丁度よかった」
「あがらないよ、昼から用事があるんでね」
「そうなんだ、それじゃお裾分けを持って行ってよ」
「お裾分け?」
「客ってのがさ、早朝に魚釣りに行ったからって友人がね」
「へぇ」

本を入れていたビニール袋に渡された新聞の包みを入れる。
この大きさだと鯵だな、今日は確実に鯵のフライだな、お互いに。

「ありがとう、フライにするよ」
「フライにしかできないと思うよ」

うん、これは小鯵だ。

「そんじゃ帰るよ」
「じゃぁまた」

帰り道、雨が上がっていた。
空はまだどんよりと曇っているものの、さっきほど暗くもない。
同じあぜ道を今度は慎重に歩く。
雨の降った後は空気が透く。
あぜ道の脇に数本の彼岸花が咲いている。
ふと顔を上げ周りを見渡す。
右側の遠く、山際に赤い縁取りが見える。
反対側には向こうのあぜ道に脇を赤い縁取りが見える。
後ろを振り返るとこの道にも沢山咲いている。

「簪の大安売りだな」

だれよりもこの簪が似合うのはこの風景なんだろうな。
そう思いながら鯵を抱えて帰った。

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迷い道の向こう側へようこそ
迷い道の向こう側にあるお話は、
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 名前 佐伯 知花
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