ズボンの裾を膝までたくし上げ、靴を犠牲に小走りで急ぐ。
傘を短く持つ手に絡めるようにビニール袋を下げ急ぐ。
肉桂の香りに似た、鼻周りに纏わりいつまでも残る匂い。
まだ雪が残る春先、土手に生える土筆を採りに行くと帰りにはいつもこの匂いがついてきた。
川原の方まで降りて行くとまだらに生えた菜の花が咲いている。
何度かその花芽を摘んで帰ってはみたものの、大抵は食卓ではなくガラスの器に浮かべられていた。
「顕微鏡はもう習ったかい?」
「うん、葉っぱを見たよ」
「そうかい、そうかい、沢山粒々が見えたろう?」
「うん!たくさん見えた!箱の中に粒々があったよ!」
斜め向かいの家は子供がよく集まっていた。
「なぜ違う品種を植えたの?」
彼女が言った。
「同じ品種だと交配が上手くいきにくいんだ。
実がよくなるようにってこと」
「ふ~ん、よくわかんない」
「虫も同じものだけじゃ飽きるんじゃない?」
「そうなの!?」
「虫に聞いてみなよ」
「あ~、またはぐらかす!」
御母屋の便所は今も外だった。
田舎に行くと今でもまだ山深い景色が残っていて、
そこに本家、分家と少し離れてあった。
本家の敷地には御母屋と別に大ばぁが住む家があった。
広い敷地は庭というより、ただ広い場所。
風呂も外にあって、別棟のそこに行くまで数メートルほどある。
壁沿いに細い竹が刺してあって、夜顔がつたっていた。
庭の紫陽花はどれも赤みを帯びた紫だった。
いつからか、青い株を植えても挿し芽をしても、
何故だか同じ赤みを帯びた紫になるようになった。
「人の心は紫陽花のよう」
内容はさまざまですが、お題のようにお話の中に何らかの植物が
係わっています。
殆どは私の身の回りにある植物でとても身近な植物です。
お話は短め。
ずっと前に学校の裏庭で見つけたその花、
咲き終わった枝先には種がついていた。
別段これと云って綺麗だと思った訳でもなく
感動したわけでもなく、なんとなくその種を
数粒取ってポケットに入れた。
あの時、もう日が暮れかけてたっけ。
夏も終わりに近づいて、日が陰る頃には
どこか物寂しい何かを感じて嫌だった。
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(若しくはジャンル)になっています。
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