『ペギーの宝物』 5
ペギーと二匹は今日も森に行きます。
今日もバラのトゲトゲのトンネルをくぐり抜けて行きます。
「この辺だったかしら・・・」
昨日どんぐりを見つけた気の下辺りです。
二匹を大きな木の根っこの横に座らせてどんぐりを探します。
「ないわ・・・」
ペギーは疲れてしまいました。
「ちょっとだけ休憩よ」
二匹の隣に並ぶように座りました。
さわさわさわっと葉っぱが音を立てます。
空を見るとすっすっとほうきで掃いたような雲が見えます。
さわさわさわっと庭の木が揺れます。
「クーも探しなさい」
「探してるよぅ」
なんだか声がします。
ペギーは眠ってしまっていたようです。
目をこすり目を覚ますと周りにはどんぐりがいっぱい落ちています。
「どんぐりがいっぱい!
クー、グー、どんぐりがいっぱい!」
二匹の座っていた方を見て言いました。
すると二匹があっちにころんこっちにころんと転げています。
その周りには緑色のどんぐりがたくさん落ちていました。
「これなら3つお揃いのブレスレットをつくれるわ」
家に帰るとペギーはたくさんのどんぐりをママに渡しました。
そして3つお揃いのブレスレットにしてもらいました。
「とってもよく似合ってるわ、お揃いの宝物ができたわね」
「ありがとうママ、宝物だけど宝物じゃないの」
「あらあら、どうして?」
「私の宝物はクーとグーなの」
「そう、弟で妹で宝物なのね」
「そうよ、とっても大切なの」
「そう。クー、グー、あなた達のお姉ちゃんは素敵ね」
「ずっと一緒、ね、クー、グー」
『ペギーの宝物』 4
「ペギー、起きてちょうだい、朝よ、ほら」
「ママ、おはよう」
「あら、今日は二匹ともベッドの中ね」
「そうなの、昨日・・・」
「ベッドの中でおしゃべりでもしてたのかしら?」
「ちがうわ!昨日、昨日・・・どんぐりがなくなっちゃったの」
「ベッドの中でなくなっちゃったの?」
「そうなの!パジャマのポケットにいれたのに」
ペギーがそういいながらパジャマのポケットに手を入れると、2つのどんぐりがちゃんとはいっています。
「あったわ・・・」
「あらあら、昨日はどんぐりも一緒に寝たのね」
「ママ、このどんぐりをペンダントにして欲しいの」
どんぐりを二つママに渡すと二匹の手をつかんでいいました。
「ペンダントにして二人にあげるの」
「ペギーのはないの?」
「二つしかないの・・・でもいいの、私はお姉ちゃんだから二人にあげるの」
「そう、わかったわ。ちゃんと作っておくわね」
「ありがとう、ママ」
「さぁ着替えて朝ごはんを食べてちょうだい。その間につくってあげるわ」
「わかったわ」
ペギーが朝ごはんを食べ終わると、ママが小さな籠をもってきました。
「はい、ペギー。ペンダントよ」
「ありがとうママ」
「そうそう、今日はこれもあるのよ」
ママは二枚の小さな前掛けとワンピースを出すとこう続けました。
「この二枚はクーとグーのよ。このワンピースはペギーのよ」
二匹の前掛けには色違いのお揃い柄のふちがついています。
ペギーのワンピースには裾と袖口にフリル、そして胸のところに2匹と同じ柄の色違いのリボンがついています。
「どうかしら、二匹のこぐまちゃんは気に入ってくれそう?」
「とっても気に入ってるわ!ありがとうママ」
「ペギーはどう?」
「とっても気に入ったわ!着てもいい?」
「いいわよ、二匹も着せてあげましょうね」
クーの前掛けにはグリーンのチェック模様のふち、グーの前掛けにはオレンジのチェック模様のふち、ペギーのワンピースにはピンクのチェック模様のリボン、みんなちょっとだけお揃いです。
「ほらみて、お揃いよ」
ペギーはリボンを二匹に見せるようにいいました。
そして二匹の首にどんぐりのペンダントをかけてあげました。
「はい、大切にするのよ」
「あらあら、クー、グーの宝物が出来たわね」
ちょうど二匹の胸の辺りにどんぐりが揺れます。
「それじゃ探検にいってくるわ」
「はい、いってらっしゃい」
『ペギーの宝物』 3
今日の夜は二匹はいません。
ペギーはお昼に拾ったどんぐりをパジャマのポケットにいれました。
そうしてベッドにもぐるとぽんぽん、ぽんぽん、とポケットの上からどんぐりをたたきます。
「二つしかないわ・・・」
夜中の事です。なんだか声が聞こえてきます。
「いいな、いいなぁ、どんぐりいいなぁ」
「だめよクー、クーはなんでもほしがるんだから」
「だって、あのどんぐりは僕が先に見つけたんだもん」
「私だって気づいてたわ、でも二人ともころんじゃってわかんなくなったでしょ」
「グーはほしくないの?」
「私はほしくないわ、おねえちゃんだもの」
ベッドの横から聞こえてきます。
「僕の方がグーよりおにいちゃんだい」
ペギーはそっとベッドの端っこから覗きみました。
「欲しがりんぼのクーはまだ赤ちゃんよ」
「欲しいくせに!うそつきのグーの方が赤ちゃんだ!」
「じゃぁ今度私が拾ったらクーにあげるわ」
「本当?ほんとにくれる?」
「私はお姉ちゃんだからクーにあげるわ」
「私の方がお姉ちゃんよ!だから二人にあげるわ!」
「本当!」
「本当!」
ペギーは口を押さえて小さく「あっ」と言いました。
「本当よ。私はあなたたちのお姉ちゃんだもの・・・」
そう言ってポケットに手を入れました。
「あれ、どんぐりがない・・・」
寝る前にちゃんと入れたはずのどんぐりがありません。
「ペギー、どんぐりちょうだい!早くちょうだい!」
「クーとお揃いのどんぐりをちょうだい!」
二匹は手を揃えて前に出して待っています。
「どんぐりがなくなったの、ちゃんと入れたのにないの」
ペギーはベッドの中にもぐるとごそごそ探し始めました。
「僕も探すよ」
「私も探すわ」
二匹もごそごそ探し始めます。
「ないわ。こんなに探したのにどこにもないわ」
ペギーは悲しくなってきました。
「ほしかったのに、どんぐり」
「仕方ないわよ、なくなっちゃったんだもの」
「グーは悲しくないの?」
「私はお姉ちゃんだもの、がまんするわ」
「明日もう一度探しに行くわ。ちゃんと見つけて二人にあげる」
ペギーはもうちょっとで出てきそうな涙をぐっと我慢していいました。
『ペギーの宝物』 2
今日は良いお天気です。
ペギーは二匹を連れて家のすぐ近くの小さな森に遊びに行くことにしました。
本当はお隣の家のお庭の背の高いガーデニング。
大きな木も植わっていてマギーにとっては森。
「今日は森に行くわよ。ここをくぐって行くと森よ」
ペギーはお隣の家のバラの垣根の下に出来たトンネルをくぐります。
「この道はあぶないのよ。気をつけて通りなさい」
ペギーは小さなトンネルを小さくなって通ります。
そして、二匹を引っ張ってトンネルを通します。
「さぁついたわ。どう大きな木、すごいでしょ」
お隣にはペギーのおじいちゃんが住んでいます。
「この森を通り抜けるとおじいちゃんの家につくのよ。
でも今日はいかないわ」
庭の中の小さな森探検をはじめます。
「おかしいわね、この辺にはもっと花がたくさん咲いていたはずなのに」
おじいちゃんと一緒に来たときも、前に一人で探検したときも、もっともっとたくさんの花が咲いていました。
でも今日はぽつんぽつんと咲いているだけ。
葉っぱは長く高く、ところどころ黄色くなっています。
それもそのはず、夏も過ぎてそろそろ秋。
二匹をつれて走ります。
二匹がころんところがります。
ペギーもころんところびます。
起き上がってぽんぽんはたきます。
二匹の鼻の頭についた土も落としてあげます。
はずれた片方の靴のホックを止めなおします。
「あ、何か落ちてる!」
ペギーは足元に小さなどんぐりを見つけました。
小さなベレー帽をかぶったような少し緑色のどんぐりです。
スカートのすそできゅっきゅっと拭くとピカピカに光ります。
「みて、ぴかぴかよ!ママにペンダントにしてもらいましょう!」
そういってポケットにしまいました。
「クーとグーのも探してあげるわ」
ペギーはクーとーグーを大きなプランターの前に並べて座らせると、さっき実どんぐりを見つけた辺りを探します。
「ないわね・・・」
もっとまわりも探します。
「う~ん、もうないわ・・・」
ペギーは残念そうに言います。
まだどんぐりが落ちるには少し早い秋の始め、木に止まった小鳥がつついて青いどんぐりを落としたみたいです。
「一つしかないわ・・・二人にあげたいけど・・・」
手のひらにのせたどんぐりを見つめていいます。
「どちらかにあげたら喧嘩になるから私がもっておくわ」
ぎゅっと手をとじるとポケットにさっとしまいます。
「これはきっととってもいい物なのよ。だから私が大切に持っておくわ」
ぽんぽんとどんぐりを入れたポケットをたたくとクーとグーの手をひきます。
森の出口のバラの垣根につくとペギーはトンネルをくぐるためにしゃがみました。
その時です、どんぐりがまた一つ落ちてました。
これも帽子をかぶった少し緑のどんぐりです。
ペギーはそれを拾うと二匹をひっぱってトンネルをくぐらせます。
「もう一つ見つけたわ!」
二匹に見せるように言うとスカートのすそできゅっと拭きます。
そしてポケットの中のどんぐりを出して二つ手のひらにのせます。
「二つになったわ」
ちょっと困ったように言いました。
「二つしかないわ・・・」
ペギーは二匹を見て、どんぐりを見て、また二匹を見て、と交互に何度も見ます。
暫くして自分のポケットにどんぐりをしまうと家に戻りました。
「あら、ペギーおかえりなさい、今日はどこにお散歩?」
「探検したの!」
「まぁ、それはすごい」
ママはペギーの汚れたスカートのすそと頭についたお隣のハーブですぐにわかります。
「ペギー、クーとグーがどろんこよ」
「今日は森の探検だったから大変だったのよ」
「このままじゃ一緒に眠れないわね、お風呂に入れてあげるわね」
ママはそういうとペギーからクーとグーを預かりました。
『ペギーの宝物』 1
クーの名前はクッキー、グーの名前はグッディー。
ペギーのお友達です。
クーはカスタードクリーム色の男の子のテディベア、グーはチョコレート色の女の子のテディベア。
ペギーの誕生日におじいちゃんがプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみです。
小さいペギーにはとても大きなぬいぐるみです。
並んでみるとまるで三つ子のように大きいぬいぐるみです。
「違うの、クーとグーは私の妹と弟よ。双子なのよ」
「あらあら、お友達じゃなかったの?」
「お友達だけど妹と弟なのよ!」
「うふふふ、かわいい妹と弟ね。
それじゃ『ペギーお姉ちゃん』双子ちゃんたちをよろしくね」
「そうよ、私はおねぇちゃんなんだからちゃんとついてきなさい!」
ペギーはそう言うとクーとグーと手を繋いで遊びに行きます。
だけれど、クーとグーすぐに手から離れてしまいます。
「悪い子ね、手を繋いでいなくちゃ迷子になっちゃうでしょ」
しっかり繋いでもすぐにポロンと外れてコロンと転がってしまいます。
「あらあら、クーのお腹が汚れちゃってるわね、転んじゃったのかしら?」
「そうなのよ、クーは男の子だからすぐに走っちゃうの」
「まぁ、おねぇちゃんも大変ね。あら、グーもちょこっと汚れちゃってるわね」
「そうなのよ、おてんばなのよ」
「あらあら」
大きなぬいぐるみを両手に走るものですから、ペギーも何度もコロンとこけちゃいます。
「そうだ、ペギー。あなたたちにお揃いの前掛けをつくってあげるわね」
「私はいらないわ、私はおねぇちゃんですもの」
「そうだったわね、それじゃクーとグーには前掛けを、ペギーにはワンピースを作ってあげるわね」
ペギーのママはそう言うと、色違いのお揃い前掛けとワンピースに見立てたスモックを作ります。
小さいペギーにとって前掛けは「あかちゃんのもの」に思えてしかたがなかったのです。
ママはちゃんと知ってます。だからスモックだけれどワンピースなのです。
ペギーは眠るとき、二匹を両側に一匹ずつ置いて並んで眠ります。
だけれど、朝起きると二匹はいつもベッドの両側にコロンと転がっています。
「おはよう、ペギー、今日もいいお天気よ」
「おはよう、ママ」
「あらあら、クーとグーが床で寝てるわ」
「そうなのよ、クーとグーはとっても寝相が悪いのよ」
「あらあら」
そうして二匹をを引っ張りあげるとぽんぽんと二回、はたいてこういうのです。
「さ、あなたたちもママにおはようを言うのよ」
明るい日差しで目が覚めた。
寝てしまったんだ・・・
願い事できなかったんだ。
振り返るとそこに、
ソファーから半分落ちかけて寝ているマサト君がいた。
ちゃんと人間だった。
起きて、起きて、起きて!
上に乗っかってゆさゆさしてみた。
マサト君起きて!戻ってるから!ねぇ!
「んぁ・・・たもつ・・・重い・・・」
マサト君、戻ってるよ、ほら。
「んんん・・・あふぁ・・・ん?
うぉぉぉ!!!素っ裸!」
おはよう、マサト君、お願いできたよ。
「おぉ、たもつ・・・は猫だな。
もう戻れないかと思った~、戻れた、よかった~」
僕お願いしたんだよ、流れ星にたくさんお願いしたんだよ。
「たもつ~昨日、楽しかったな。
戻れたから言えるんだけどさ~
あ、カリカリは・・・ちょっと寂しいな。
でも戻れてよかった~。
なんで戻れたかなぁ・・・な、たもつ、なんでと思う?」
僕がお願いしたからだよ、きっと!
「って、たもつにもわかんないか。」
僕・・・の言葉はもう聞こえないんだ。
「たもつ、ありがとな。
お前と話してみたいと思ったのは俺もだから。
猫になってお前と話してみたいって、
いい年こいて思ってた。
だから、お前のせいじゃないから。」
僕は神様に「マサト君と同じにしてください」ってお願いしたんだ。
神様が叶えてくれたのはマサト君の願いだったんだ。
僕の願いじゃなかったんだ。
だって僕のその願いはもう、叶えるまでもなかったんだから。
「結局俺もお前も同じ事考えてたんだな。
猫のお前と人間の俺が同じ事を。
どうなのこれって、はははは」
僕の願い事はきっと、
マサト君に会えた時に叶っていたんだと思うんです。
袋の中できっと、神様にお願いしてたんだと思うんです。
幸せを下さい。
神様、僕は今日も幸せです。
そして、これからも幸せです。
日が陰て薄暗くなった頃、目が覚めた。
マサト君は窓のところで外を見ていた。
「たもつ、雪降ってんぞ」
「え、どこどこ」
「ほら、今年はホワイトクリスマスだな」
「ホワイトクリスマス?」
「クリスマスに雪が降るとそう言うんだ」
「そうなんだ」
「お前を拾った時も雪が降ってたな」
「そうだっけ・・・あんまり覚えてないよ。」
「ははは、そうだよな、あん時まだ手のひらサイズで
小さかったしな」
「そんなに小さかったんだ・・・」
「おまえさ、箱にも入れられてなかったんだぜ。
紙袋につっこまれてて。
声だけしててさ・・・。」
少しだけ覚えてる。
寒くて寒くて、怖くて寂しくて。
どこからか何か声がして、
近くを足音がして。
必死で叫んだんだ。「ここだよ、ここにいるよ」って。
「最初どこから声がしてるかわかんなくてさ。
ほっとこうと思ったんだけど、なんかさ・・・
なんかわかんないけどさ、ほっとけなくてさ。
探したんだぜ、雪の中で這い蹲って。
自分でもおかしいくらい必死でさ。
紙袋がかさかさ動いて、そこから声がしてるのに気づいた時、
わけわかんねぇくらい嬉しかった。」
僕はそこからは覚えてないんだ。
でも、きっと僕よりも冷たい手で僕を拾ってくれたんだ。
その後に覚えてるのはこの部屋と暖かいマサト君の手だった。
「止んだ、全然積もってもないな。
あぁ、向こうの方星見えてるわ。」
「ホントだ、この上の方は灰色なのに。」
「風が強い日だと、雲の流れが早いからな」
「空って面白いね」
「お前夜もよく窓んとこいるもんな。
なぁ、お前さ、流れ星って知ってるか?」
「流れ星?」
「あの空の星の中で、すっと空を横切るように流れる星があるんだ」
「気が付かなかった!」
「流れ星が流れきるまでに願い事を言うと叶うんだぞ。」
「すごい!」
「ちなみに俺は成功した事がない」
「むずかしい?」
「難しいから叶うって言われてるんだ。
さて、腹減ったろ?
飯・・・カリカリ食うか?」
「うん」
僕はまたお願いするんだ。
今度は星にお願いするんだ。
少ししか見えない空、風がもっと強く吹けばいいのに。
雪は嫌いだ。
雪の雲はどっかに行けばいいのに。
早く真っ黒の空とたくさんの星の空になればいいのに。
そしてたくさん流れ星が流れればいいのに。
そしたら、いっぱいいっぱい同じお願いするんだ。
「マサト君を元に戻してください」
夜中になっても少しの空しか見えなかった。
マサト君はいつもの時間に眠たくなって、
ソファーの上で丸くなって寝てる。
何だかぼんやりしてきた・・・少し眠い。
でも頑張らなくちゃ。
あ、言えたかも。
あ、だめだ・・・失敗・・・
今度こそ、今度こそ・・・今度こそ・・・
チチチ・・・チュンチュン・・
朝だ・・・。
あ・・・やっぱり願いは叶わなかったんだ。
僕は猫のままだ。
あれ、今日は朝ごはんの匂いしない。
マサト君起こさなくちゃ。
あぁ、またもぐって寝てるんだ。
猫の僕には布団をはがすのは大変なんだけどなぁ。
マサト君、起きて、起きて、起きて!
布団の上に飛び乗ってゆさゆさしてみた。
いつもとチョット違う。
「たもつ、もちょっと寝させて、今日休みなんだ」
「だめ!起きて!もう10時だよ!」
「え~10時・・・後10分でいいから・・・」
布団の端に噛み付いて、思いっきり勢いよくベッドから
飛び降りてみた。
だれ、この猫。
「たもつ・・・後10分ってば・・・」
「マサト君?」
「なに、たもつ・・・」
「マサト君・・・」
「たもつ!でか!」
違うよ、マサト君、マサト君が縮んで・・・
ていうか猫になったんだよ。
「あー!!!俺の手が!手が!」
「マサト君、手だけじゃないよ・・・」
「なに!?うぉ!!足が!何だこの肉球は!」
「尻尾もあるよ・・・」
「うぉぉぉ!!!なんだこれは!」
「マサト君・・・」
「耳か!耳!おお!ツンとだな!おぉ!
いい毛並み過ぎる!ふわふわでもこもこでつやつやじゃないか!!」
「マ、マサト君・・・」
「うぉぉぉぉ!!!!」
「お、落ち着いて・・マサト君・・・」
マサト君が壊れました。
30分ほど勢いよく壊れて、その後鎮火しました。
「何なんだ・・・これは・・・」
「猫・・・だね。」
「たもつ、言葉喋ってるし・・・」
「あ、うん、ていうか、いつも喋ってるよ。
いつもは通じないだけ。
今はマサト君猫だから通じるんだよ、たぶん」
「そっか・・・。」
納得してしまうほどショックなんだ・・・
慰めの言葉がも見つからないってこういうこと言うんだ・・・
「マサト君、僕ね、いつもマサト君に話ししたいって
思ってたんだ。
だから毎日お願いしたんだ。
マサト君と一緒にしてくださいって」
「うん。」
「僕が人間になれたらいいなぁって。」
「うん。」
「マサト君が猫になっちゃった・・・」
「うん。」
「ごめんなさい・・・」
「いや・・・謝られても・・・」
「僕がちゃんと、人間にしてくださいってお願いしなかったから」
「問題点そこじゃないから」
そうだよね、マサト君が猫になってしまうなんて。
これから・・・と言うより、まずは今日。
僕の方が「猫の先輩」なんだから、しっかりしなくちゃ。
「あのね、マサト君!」
「たもつ、とりあえず飯に食おうか」
マサト君はやっぱりマサト君だった。
自分のご飯より先に僕のご飯を用意してくれるんだ。
猫になっても、そうなんだ・・・
「たもつ、缶詰開けられない・・・カリカリだけで我慢して」
「カリカリも好きだからいいよ!」
カリカリの箱は僕も開けられる。
猫缶は・・・まだ上のタブを上げるだけしか・・・
「さて、俺はどうするかな」
「一緒に食べようよ・・・ってだめ?」
「俺もそれ食うのか・・・」
「美味しいよ?これ一つずつ味が違うんだよ」
「らしいな、これも経験ってか・・・
かなり勇気がいるんだが・・・」
「そうなの?」
「うん」
カリカリカリカリ……
なんか嬉しい。
喜んじゃいけないんだけど、でも嬉しい。
今僕はマサト君と同じでいるんだ。
「そういえば、たもつ、いつも俺がバイト行った後って
なにしてるんだ?」
「ん・・・えっと、ごろごろしたり、棚とか椅子とか登ったり・・・
窓の外見たり・・・色々やってるよ。」
「そなんだ。」
本当は、ガリガリも少しやってたりするんだけど、
それは言えない・・・。
「あとはお昼寝かなぁ・・・」
「昼寝かぁ・・・それは俺も好きだ」
同じ事が好き、それも嬉しい。
言葉通じるとやっぱり嬉しい。
マサト君には申し訳ないけど、僕はとても嬉しい。
同じ歩調でソファーに移動。
あくびがうつって二匹であくび。
物音にチョットびっくりして同時に耳を動かして。
日当たりのいい窓から少し離れたところで一緒にお昼ね。
僕は猫です。
マサト君に飼われている猫です。
僕は去年の冬にマサト君に拾われました。
その時はまだ小さかったので、
ただ寒かったとだけしか覚えていません。
だから、僕にとってクリスマスは初めてです。
「たもつ、いい子にしてるんだよ」
僕は毎朝玄関で座ってマサト君を見送ります。
マサト君はバイトに行きます。
そして夜にマサト君が帰ってくるのを待っています。
窓からの眺めは最高です。
ここからは遠くまでよく見えます。
だから僕はここが大好きです。
マサト君はいつも僕に話しかけてくれます。
たくさん、たくさん話しかけてくれます。
楽しそうな顔、嬉しそうな顔、怒った顔、
そして寂しそうな顔で。
僕も一生懸命話そうとします。
一生懸命答えようとします。
そうしたらマサト君はいつも「ありがとう」と
言ってくれます。
何も通じていないのに、言葉一つも話せないのに。
嬉しいけれど、悲しくなります。
クリスマスにはサンタクロースが来て、
プレゼントをくれると聞きました。
欲しいものを願うとくれるのだと。
だから僕は毎晩マサト君が眠ったら、
こっそり窓から空に向かってこうお願いしています。
マサト君とお話がしたいです。
だからまさと君と同じにしてください。
もう寝なくちゃ、ちゃんと寝ないとサンタクロースは
来てくれないんだった。
僕も寝よう。
『ゆらゆらゆれて』 9
帽子が落ちそうなくらい揺れています。
片手で帽子を押さえて、
もう一歩でランタンを握り締めて走ります。
それでもランプの火はちらりともしません。
気が付くと家のすぐ近くの道まで走っています。
さっきまでは真っ暗だった周りが、
月明りで明るくなっています。
家の近くまで来るといい匂いがします。
「ただいま、帽子5つ貰ってきたわ」
「おかえり、トルティア。
ずいぶん遅いから、
迎えにいこうと思っていたところだったよ。」
「ごめんなさい」
「でも、よくがんばったね、ありがとう。
おや、このランプはどうしたのかい?」
「帽子やさんがかしてくれたの。」
トルティアはそう言うと、
ひょろりとしたアルティエットに帽子を渡しました。
「おぉこれだこれだ。
ありがとうトルティア。
そして、これはご褒美の帽子だ。
大切にするんだよ。」
トルティアは帽子をかぶりなおして窓に向かうと、
顔を右へ左へ向けて窓に映った自分を見ます。
「おかえりトルティア、
さぁ、夕食の用意が出来たよ。
帽子を置いてテーブルにおつき。」
食事をはじめるとトルティアは森であった事を
みんなに話します。
「この火はそのジャックオーランタンから貰ったのよ」
とても怖かった事は内緒にして。
テーブルにはそのランプも明るく灯っています。
「ランタンを作ったらこの火を灯すといいよ。」
おばあさん魔女はそう言うと、
ランプの火を小さくしました。
ゆらりともしなかった火が小さく灯ります。
食事が済むとトルティアとスニティアはカボチャをくり貫いて
ランタンを作りました。
そしてジャックオーランタンの火を灯すと、
玄関の外に飾りました。
明日はハロウィンです。
朝目が覚めたトルティアは、
急いで玄関外のランタンを見に行きました。
小さくですがちゃんと灯っています。
そして、トルティアの作ったランタンには
小さな下げ袋が引っ掛けられていました。
「昨日ジャックオーランタンに渡した下げ袋だわ。」
それを取ると中を見てみました。
「クッキーは全部食べたのね。」
トルティアは少しだけ嬉しくなりました。
ランタンの灯がゆらゆら揺れました。
10 | 2024/11 | 12 |
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各カテゴリーがお話の題名
(若しくはジャンル)になっています。
「日記」はそのまま日常のことです。
「植物なお話」は植物が何らかの形で
係わっているおはなしです。
「迷い道のその向こう」はチョット
変わったファンタジー系(?)の
お話です。
「Gear」はパラレル系です。このお話
のみ、条件付きになっています。
配信中の「聴くお話」です。
「読むお話」は『迷い道の向こう側』でも
公開しています。
聴くお話では沢山の方に
お手伝いしていただいております。
趣味 書くこと
植物観賞
嗜好 日本酒
紅茶
PCパーツ店巡り